添乗員ライターがお届けする旅行情報。今回は、長崎県にある軍艦島デジタルミュージアムをご紹介します。世界遺産に登録された端島炭鉱、通称「軍艦島」の歴史と魅力を、最新のデジタル技術で体感できる画期的な施設です。
長崎港から南西約19キロメートルの海上に浮かぶ端島は、その外観が軍艦に似ていることから「軍艦島」と呼ばれる小さな島です。2015年に「明治日本の産業革命遺産」の構成資産として世界文化遺産に登録されたこの島は、日本の近代化を支えた海底炭鉱の島として、かつては世界一の人口密度を誇っていました。
しかし、実際の軍艦島への上陸は天候に左右されやすく、たとえ上陸できても立入禁止区域が多いという課題があります。船が苦手な方や小さなお子様連れのご家族にとって、上陸ツアーへの参加はハードルが高いものです。そうした中、軍艦島デジタルミュージアムは、最先端のデジタル技術を駆使して、誰もが天候に関係なく、いつでも軍艦島の魅力を体感できる場所として注目を集めています。
軍艦島デジタルミュージアムとは
軍艦島デジタルミュージアムは、2015年9月17日にオープンした施設です。最新のVR技術、プロジェクションマッピング、30メートルの巨大スクリーンなど、現代のデジタル技術を活用し、軍艦島の歴史や当時の人々の生活を臨場感たっぷりに再現しています。
上陸ツアーでは決して立ち入ることのできない禁止区域の内部や、最盛期の活気溢れる島の様子を、バーチャルリアリティで体験できるのが最大の魅力です。ドローンで撮影された立入禁止区域の映像や、元島民の証言、4,000枚以上の写真や動画資料をもとに、軍艦島の「リアル」を追体験できます。
館内には軍艦島の歴史を案内してくれる元島民のガイドもおり、実際に島で暮らしていた方々の生の声を聞くことができます。デジタル技術と人の温もりが融合した、新しいタイプのミュージアムと言えるでしょう。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 施設名 | 軍艦島デジタルミュージアム |
| 営業時間 | 9:00〜17:00(最終入館16:30) |
| 休館日 | 不定休 |
| 住所 | 〒850-0921 長崎県長崎市松が枝町5-6 |
| アクセス | 長崎電気軌道「大浦天主堂」電停下車徒歩1分 長崎バス「グラバー園入口」バス停下車徒歩30秒 |
栄華から衰退へ―端島炭鉱の歴史
石炭発見から本格採掘へ
軍艦島の歴史は、1810年頃に岩礁に露出した石炭を漁師が発見したことから始まります。当初は漁民が漁業の傍ら、ごく小規模に石炭を採っていた程度でした。
1887年、深掘出身の渡辺元により、軍艦島で最初の竪坑である深さ36メートルの「第一竪坑」が開削されました。この時、軍艦島の原型となる石垣や機械置き場、貯炭場が整備されます。その後1890年、三菱が旧鍋島藩藩主・鍋島孫六郎から端島炭坑を10万円で買収し、高島の支坑として本格的な開発が始まりました。
1891年から本格的な石炭採掘が開始され、第二竪坑と第三竪坑の開削により、端島炭鉱の出炭量は高島炭鉱を抜くまでに成長しました。軍艦島で産出される石炭は、瀝青炭の中でも最も火力が強い「強粘結炭」で、製鉄に不可欠なコークスの原料として使われる高価な石炭でした。採掘された石炭は、福岡県北九州市の八幡製鉄所などに供給され、日本の近代化を支え続けました。
日本初の高層鉄筋コンクリートアパート
人口増加に伴い、島の拡張工事が段階的に進められました。1897年からは埋め立てが行われ、元々小さな岩礁だった島は、最終的に面積約6.3ヘクタール、東西約160メートル、南北約480メートルの人工島へと姿を変えました。
1916年には、日本で最初の鉄筋コンクリート造の集合住宅「30号棟」が建設されました。この建物は、労働者の住環境改善と島の限られた土地の有効活用を目的としたもので、日本の建築史において画期的な出来事でした。この頃から「軍艦島」という通称が定着し始め、1921年には長崎日日新聞が、当時三菱重工業長崎造船所で建造中だった日本海軍の戦艦「土佐」に似ているとして「軍艦島」と呼んでいます。
世界一の人口密度を誇った最盛期
第二次世界大戦後、端島炭鉱労働組合の結成や労働各法の成立により労働環境が向上し、賃金上昇とともに人口が急増しました。1960年代には、わずか6.3ヘクタールの小さな島に約5,300人が暮らし、人口密度は当時の東京の約9倍、世界最大の人口密度を記録しました。この記録は、現在も破られていません。
狭い島での生活は、空間を工夫した独特なものでした。島内には、売店、病院、理髪店、飲食店、映画館、プール、学校など、生活や娯楽に必要な施設がすべて揃っていました。炭鉱で働く人々の所得は高く、カラーテレビの普及率が全国平均10パーセントの時代に、島内では100パーセントの世帯が所有していたと言われています。
コンクリートの島に緑を求めて、土を購入してベランダで植物栽培を行う人も多く、屋上庭園も設けられました。最先端の技術を駆使したエレベーターが設置されるなど、当時としては非常に進歩的で裕福な生活が営まれていました。
エネルギー革命と閉山
1950年代に入ると、エネルギーの主役が石炭から石油へと移り変わり、軍艦島は衰退の一途をたどります。1962年の原油輸入自由化や、1964年の九片治層坑道の自然発火事件による最深部の水没が痛手となり、炭鉱の規模は縮小されていきました。
炭鉱以外の産業がなかった軍艦島では、人口も急激に減少しました。新しい炭層を求めて掘り進められましたが、石炭以外の残土ばかりが産出される状況となり、1972年に採掘は終了します。
1974年1月15日、約100年続いた端島炭鉱は閉山を迎え、同年4月20日には残っていた約2,000人の島民が一斉に退去し、軍艦島は無人島となりました。その後は安全面を考慮して一般立ち入りが禁止されていましたが、2009年に見学道路が整備され、上陸ツアーが開始されました。そして2015年、「明治日本の産業革命遺産」の一部として、世界文化遺産に正式登録されました。
最先端デジタル技術で蘇る軍艦島
5面体立体シアター
軍艦島デジタルミュージアムの目玉コンテンツの一つが、2024年3月に導入された「立体シアター」です。天井と床を含めた5面の4Kパネルで部屋全体が映像に包まれ、まるで実際に軍艦島の立入禁止エリアに降り立ったかのような没入体験ができます。
上陸ツアーでは決して見ることのできない居住エリアの内部まで、全身で体感できるのが特徴です。崩壊が進む建物の様子や、当時の生活空間を、立体的な映像で追体験することができます。
VR・MR体験で島を探検
「軍艦島VR」では、2021年に撮影された立入禁止区域をVRゴーグルを装着して仮想上陸できます。ドローンで撮影された映像を使用しているため、通常では絶対に見ることのできないアングルから軍艦島を探検できます。
さらに「すすむVR」では、VRとエアロバイクを組み合わせ、軍艦島の上空を飛行する体験も可能です。自分でペダルを漕ぐことで、まるで本当に空を飛んでいるような感覚を味わえます。
マイクロソフト社のホロレンズを使った「MR体験」では、現実世界とバーチャル世界がミックスされた空間を体験できます。ホロレンズを装着して館内を歩くと、軍艦島で暮らしていた人々や当時使われていた物が現実世界に浮かび上がり、最後には石炭採掘ゲームで競争を楽しめます。
軍艦島シンフォニー
全長30メートルのスクリーンに約3,000枚の写真を投影する「軍艦島シンフォニー」は、プロジェクションマッピング技術を使用した展示です。30分に1回上映されるスペシャルアニメーション「Amazing Hashima」では、軍艦島の当時の様子を大迫力の映像で体感できます。
軍艦島3D散歩
マウスやコントローラーで3Dモデルで構築された軍艦島を自由に動かし、島内を散歩している気分を味わえます。自分のペースで島の隅々まで探検でき、気になる場所をじっくり観察できるのが魅力です。
プロジェクションマッピングによるジオラマ
実寸の150分の1のジオラマにプロジェクションマッピングを用いて、イベントや日常など島の3日間を再現しています。朝・昼・夜と変化する軍艦島の様子を、俯瞰的に観察できます。島民の生活リズムや、島全体がどのように機能していたのかを理解するのに役立つ展示です。
坑道体験
現在は見ることのできない炭鉱の坑道内部を再現したコーナーでは、トロッコやエレベーター(ケージ)に乗っているようなリアルな体験ができます。坑員たちが実際に体験していた過酷な労働環境を、疑似体験を通して理解することができます。
当時の生活再現
最盛期にはさまざまな間取りの30棟以上のアパートが林立していた軍艦島。館内では、1950年代後半の一部屋を再現し、当時の軍艦島の生活を詰め込んだ展示があります。家具や生活用品など、細部まで当時を再現しており、島民がどのような暮らしをしていたのかを具体的にイメージできます。
元島民の証言
元島民の島に対するコメントと写真で構成されたコーナーでは、島民の表情に表れた島への想いを感じることができます。実際に島で暮らした人々の生の声は、デジタル技術では再現できない貴重な証言です。
軍艦島の現状と課題
「カウントダウン軍艦島」では、東京大学大学院工学系研究科と共同で算出した軍艦島の各建物の余命をカウントダウンする数字で表現しています。「Tears of Gunkanjima」という展示では、特殊な金属で製作された軍艦島の模型が、まるで「涙」を流しているかのように「雫」となって溶けていく様子を表現し、崩壊の危機にある島の現状を伝えています。
島の体育館だった71号棟の倒壊前から現在までの模型展示では、強風や荒波の影響で体育館が壊れる様子が克明に表現されており、自然の脅威と文化財保存の難しさを実感できます。
軍艦島デジタルミュージアムの入館料金
| 区分 | 個人料金 | 団体料金(15名以上) |
|---|---|---|
| 一般 | 1,800円 | 1,500円 |
| 中学生・高校生 | 1,300円 | 1,000円 |
| 小学生 | 800円 | 600円 |
| 幼児 | 500円 | 300円 |
| 3歳未満 | 無料 | 無料 |
※長崎県在住の方は50%割引
合わせて訪れたい周辺の観光スポット
グラバー園

軍艦島デジタルミュージアムから徒歩約3分の場所にあるグラバー園は、長崎を代表する観光スポットです。国指定重要文化財の旧グラバー住宅・旧リンガー住宅・旧オルト住宅をメインに、市内に点在していた6つの明治期の洋館を移築し復元しています。
長崎港の大パノラマを見下ろす南山手の丘に位置し、異国情緒あふれる景観が楽しめます。園内各所が花々で彩られており、いつどこを切り取っても絵になる空間が広がっています。また、石畳の一画にあるハートストーンは、触れて願い事をすれば恋が叶うという伝説があり、恋愛成就のパワースポットとして人気です。
大浦天主堂

軍艦島デジタルミュージアムから徒歩約1分の場所にある大浦天主堂は、幕末の開国にともなって造成された長崎居留地に建設された、現存する日本最古の教会堂です。中世ヨーロッパ建築を代表するゴシック調の教会で、聖堂内を飾るステンドグラスの中には約100年前のものもあります。
1865年2月の献堂式から1ヵ月もたたないうちに、浦上の潜伏キリシタンがプティジャン神父に信仰を告白した「信徒発見」の舞台となった場所で、世界の宗教史上にも類を見ない歴史的瞬間を体験できます。1953年に国宝に指定され、2018年には「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産として世界文化遺産に登録されました。
旧香港上海銀行長崎支店記念館
軍艦島デジタルミュージアムから徒歩約1分の場所にある旧香港上海銀行長崎支店記念館は、長崎近代交流史と孫文・梅屋庄吉ミュージアムとして一般公開されています。明治期に建てられた石造りの洋館は、当時の長崎の国際性を物語る貴重な建築物です。
館内では、中国の革命家・孫文と、彼を支援した長崎の実業家・梅屋庄吉の交流の歴史を学ぶことができます。異国情緒漂う南山手エリアの歴史を深く理解するのに最適な施設です。
周辺のオススメ宿泊施設
ANAクラウンプラザホテル長崎グラバーヒル
軍艦島デジタルミュージアムから徒歩約1分という抜群の立地にあるANAクラウンプラザホテル長崎グラバーヒルは、異国情緒漂う南山手地区の大型シティリゾートホテルです。グラバー園・大浦天主堂が徒歩圏内にあり、観光の拠点として最適です。
洗練された雰囲気と上質なサービスが魅力で、長崎の新鮮な食材を使った和洋中の食事も楽しめます。客室からは長崎港の景色を望むことができ、ワンランク上のホテルステイを約束してくれます。

ホテルモントレ長崎
軍艦島デジタルミュージアムから徒歩約5分の場所にあるホテルモントレ長崎は、長崎とゆかりの深いポルトガルの大航海時代をイメージした異国情緒あふれるホテルです。輝く太陽と中世の城壁都市の文化を背景にロマン薫るデザインで統一されています。
大浦天主堂やグラバー園の間近に位置し、中華街も徒歩圏内です。軍艦島クルーズ船乗り場まで約3分とアクセスも良好で、観光にもビジネスにも便利な立地です。全室Wi-Fi設備と加湿機能付空気清浄器を完備しています。

ホテルインディゴ長崎グラバーストリート
軍艦島デジタルミュージアムから徒歩約2分の場所にあるホテルインディゴ長崎グラバーストリートは、2024年にオープンした長崎・南山手の新しいホテルです。長崎港と市街地を望む南山手に位置し、当時の品格を継承しながら新たなスタイルとして生まれ変わりました。
時の流れを味わい、色鮮やかなカルチャーに触れる、時空を「さるく」ような体験ができるホテルとして、長崎に暮らす人々ですらなかなか触れる機会がない「ホンモノの長崎」の物語を提供しています。

まとめ

軍艦島デジタルミュージアムは、世界遺産・軍艦島の魅力を、最新のデジタル技術を通して誰もが体感できる画期的な施設です。天候に左右されず、上陸ツアーでは見ることのできない立入禁止区域まで、VRやプロジェクションマッピングで詳しく知ることができます。
明治から昭和にかけて日本の近代化を支えた海底炭鉱の島・軍艦島。世界一の人口密度を誇った最盛期の活気溢れる暮らしから、エネルギー革命による閉山、そして現在の廃墟化まで、その激動の歴史を追体験できる貴重な場所です。
元島民のガイドによる生の証言や、4,000枚以上の写真・動画資料、最先端のデジタル技術が融合した展示は、訪れる人々に深い感動を与えてくれます。長崎観光の際には、ぜひ軍艦島デジタルミュージアムを訪れて、日本の近代化の歴史と、そこに生きた人々の営みに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
周辺にはグラバー園や大浦天主堂といった他の世界遺産もあり、異国情緒漂う南山手エリアを一日かけてゆっくりと散策するのもおすすめです。
