添乗員ライターがお届けする旅行情報。今回は、川端康成の名作「雪国」の舞台として知られる越後湯沢温泉の魅力を、歴史的背景から温泉の特徴、楽しみ方まで徹底的にご紹介します。
越後湯沢温泉とは
越後湯沢温泉は新潟県南魚沼郡湯沢町に位置する、開湯800年以上の歴史を誇る温泉地です。谷川岳や苗場山など雄大な山々に囲まれたこの地は、東京から上越新幹線でわずか約70分というアクセスの良さも魅力のひとつ。冬のスキーリゾートとしても有名ですが、一年を通して温泉と自然を楽しめる人気の観光地となっています。
川端康成の小説「雪国」の舞台となったことで全国的に知られるようになった越後湯沢温泉。物語の有名な冒頭「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」で登場する清水トンネルを抜けた先に広がる温泉街は、今もなお文学の香りと温泉情緒を色濃く残しています。
時間に追われる現代だからこそ感じる懸念
越後湯沢温泉への旅行を検討する際、多くの方が気になるのが「限られた時間で本当に楽しめるだろうか」という点です。温泉地として魅力的なスポットが点在する越後湯沢では、どこを訪れるべきか迷ってしまうことも少なくありません。
また、温泉地ならではの共同浴場や外湯めぐりに興味はあるものの、初めての訪問では利用方法や雰囲気がわからず不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。地元の方が日常的に利用する共同浴場に観光客が入っても大丈夫なのか、どのようなマナーが必要なのか、事前に知っておきたい情報は山ほどあります。
さらに、スキーシーズンとそれ以外の季節では楽しみ方が大きく異なるため、訪れる時期によって体験できる内容が変わってくるという側面もあります。冬以外の季節に訪れる価値があるのか、グリーンシーズンならではの魅力は何なのか、そうした疑問を抱く方も多いのではないでしょうか。
800年以上の歴史が紡ぐ温泉文化
越後湯沢温泉の歴史は古く、平安時代末期の1076年にはすでに温泉が存在していたという記録が残されています。会津藩の地誌によれば、この頃から温泉として認識されていたとされ、実に900年近い歴史を持つ温泉地なのです。
温泉の発見には興味深い伝説が残されています。今から約800年前、新発田藩士の高橋半左エ門という人物が急病に見舞われた際、この地で野宿をすることになりました。食事の準備のために谷川へ入ったところ、湯ノ沢川の奥で偶然にも天然湧出の温泉を発見したと伝えられています。これが越後湯沢温泉の始まりとされる物語です。
江戸時代に入ると、越後湯沢は旧三国街道の宿場町として大いに栄えました。参勤交代で行き交う人々や旅人たちが疲れを癒す湯治場として、温泉は重要な役割を果たしていたのです。明治時代の記録によれば、松坂屋、大和屋、中屋という三軒の宿屋があり、木製の湯船には丸太が一本置かれ、湯治客はその丸太を枕に長時間ぬる湯に浸かっていたという当時の様子が記されています。
大きな転機が訪れたのは昭和初期です。1931年に上越線が開通したことで、関東からの旅行客を見込んで本格的な温泉開発が始まりました。同年、地元有志によって西山一帯での温泉掘削が開始され、翌1932年には温度71度という高温の温泉の湧出に成功します。これをきっかけに次々と温泉の掘削が行われ、駅周辺に大型ホテルや旅館が立ち並ぶ一大温泉リゾート地へと発展していきました。
川端康成と「雪国」が残した文学の足跡

越後湯沢温泉を語る上で欠かせないのが、ノーベル文学賞作家である川端康成の存在です。1934年、川端は清水トンネルを抜けて初めて越後湯沢を訪れ、その後何度もこの地を訪問しています。
川端が常宿としていたのが、温泉街の高台に位置する高半旅館です。この旅館で川端は1934年の晩秋から1937年にかけて、約3年の歳月をかけて代表作「雪国」を執筆しました。妻子を持つ文筆家の島村と、雪国で出会った芸者の駒子との交流を描いた物語は、越後湯沢の雪深い風景と温泉情緒を背景に展開されます。
現在、雪国の宿高半では、川端が執筆に使用した「かすみの間」が保存され、宿泊客が見学できるようになっています。当時は木造3階建ての建物の2階にあったこの部屋は、現在は新しい建物に移築され、文学資料室として公開されています。作品の中で島村と駒子が逢瀬を重ねた場所のモデルともなったこの部屋は、文学ファンにとって特別な空間です。
また、共同浴場のひとつである「駒子の湯」は、小説のヒロイン駒子の名にちなんで命名されました。館内には雪深い湯沢の風景を写した写真などが展示され、「雪国」の世界観を感じることができます。温泉街には他にも、湯沢町歴史民俗資料館「雪国館」など、川端康成と「雪国」に関連するスポットが点在しており、文学散策を楽しむことができます。
多彩な泉質が楽しめる温泉の特徴
越後湯沢温泉の大きな魅力のひとつが、複数の異なる泉質の温泉を楽しめることです。現在、湯沢町では温泉集中管理方式を採用しており、4カ所の配湯所から各温泉施設に温泉が供給されています。
この管理方式が採用されたのには理由があります。新幹線工事の着工により各源泉の湯量が減少したため、安定した温泉供給を実現する必要がありました。現在は複数の源泉を集約して管理することで、年間を通じて安定した温泉供給が可能となっています。
主な泉質としては、第1配湯所からはナトリウム・カルシウム塩化物温泉が供給されています。源泉温度は57.3度と高温で、弱アルカリ性低張性高温泉に分類されます。第2配湯所と第3配湯所からは単純温泉が供給され、それぞれ源泉温度55.2度、55.8度の弱アルカリ性低張性高温泉です。
さらに、越後湯沢温泉の中で最も古い湯元にある「山の湯」では、単純硫黄泉を源泉かけ流しで楽しむことができます。弱アルカリ性のお湯は肌に優しく、すべすべとした湯上がり感が特徴です。このように、施設によって異なる泉質の温泉に入浴できるため、外湯めぐりをすることで様々な温泉の効能を体験できるのです。
温泉の効能としては、神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、運動麻痺、関節のこわばり、うちみ、くじき、慢性消化器病、痔疾、冷え性、疲労回復などが挙げられます。特に弱アルカリ性の温泉は美肌効果があるとされ、女性に人気があります。
外湯めぐりで温泉文化を体感
越後湯沢温泉を訪れたら、ぜひ体験していただきたいのが「外湯めぐり」です。町内には地元の方々が日常的に利用する共同浴場が5カ所あり、観光客も気軽に利用することができます。
湯元共同浴場「山の湯」
越後湯沢温泉で最も歴史のある共同浴場です。通称「やまんぼちゃ」と呼ばれ、地元で親しまれています。ここでは越後湯沢温泉発祥の元湯源泉を使用した単純硫黄泉を、加水なし、加温なし、循環ろ過なし、塩素剤混入なしの完全源泉かけ流しで楽しめます。
川端康成が「雪国」を執筆した雪国の宿高半の近くに位置し、康成自身も利用したと伝えられている浴場です。浴槽は1つで5〜6人が入ればいっぱいになるこじんまりとしたサイズですが、その情緒は満点。地元の方と観光客が一緒に温泉を楽しむ、まさに共同浴場ならではの雰囲気を味わえます。
下湯沢共同浴場「駒子の湯」

小説「雪国」のヒロイン駒子の名にちなんで名付けられた温泉です。越後湯沢駅に最も近い立地にあり、アクセスの良さから多くの利用者で賑わっています。
風情のある建物の中には、15人ほどが入れる湯船と仕切りが付いた洗い場があります。窓からは湯沢の山並みを望むことができ、開放的な気分で入浴を楽しめます。泉質はナトリウム・カルシウム塩化物温泉で、癖がなく温まりやすく湯冷めしにくいのが特徴です。
館内には雪深い湯沢の風景を写した写真などが展示されており、「雪国」の物語世界をイメージしながら温泉を楽しむことができます。
三俣共同浴場「街道の湯」
外湯の中で唯一露天風呂を備えた共同浴場です。豊かな自然に囲まれた開放的な環境で、四季折々に移り変わる山並みを眺めながら温泉に浸かることができます。
露天風呂は岩造りで約10人、内風呂は石風呂で約20人ほどが入れる広さがあります。泉質は単純温泉で、頭に冷たいタオルを乗せて露天風呂に入れば頭寒足熱効果も期待できます。きれいな空気の中で深呼吸しながらゆっくりと浸かれば、五感が刺激されて心身ともにリラックスできるでしょう。
近くには道の駅みつまたがあり、地元湯沢の農産物やお土産、レストランやカフェ、足湯なども楽しめます。温泉と合わせて立ち寄ってみるのもおすすめです。
土樽共同浴場「岩の湯」

魚野川沿いの湯沢フィッシングパーク近くに位置する共同浴場です。泉質はアルカリ性単純温泉で、自然に囲まれた静かな環境の中で温泉を楽しめます。
釣りや川遊びの後に立ち寄るのに最適な立地で、アウトドアアクティビティと温泉を組み合わせて楽しむことができます。
二居共同浴場「宿場の湯」
田代スキー場近くに位置する共同浴場で、内風呂とジャグジー、サウナを完備しています。泉質は単純温泉で、スキーやスノーボードの後に疲れを癒すのに最適です。
越後湯沢温泉街からは少し離れた場所にありますが、その分静かな環境でゆったりと温泉を楽しむことができます。
お得な外湯めぐり券
5つの共同浴場をお得に巡りたい方には「外湯めぐり券」がおすすめです。各共同浴場や越後湯沢駅構内の広域観光情報センター、駅西口の湯沢温泉総合案内所で購入でき、5つの外湯すべてに入浴できます。個別に入浴料を支払うよりもお得になるため、複数の温泉を楽しみたい方はぜひ活用してください。
温泉街の魅力を満喫する過ごし方

越後湯沢の温泉街には、温泉以外にも楽しめるスポットが数多く存在します。駅西口を出ると風情豊かな温泉街が広がり、散策しながら食べ歩きを楽しむことができます。
グルメ散策を楽しむ
温泉街には地元の飲食店が並び、名物の温泉まんじゅうや、ヨモギの香り豊かな笹団子など、新潟ならではの味覚を堪能できます。特に昼食には、新潟名物のへぎそばがおすすめです。

へぎそばは、へぎと呼ばれる四角い木製の器に美しく盛り付けられたそばです。最大の特徴は、布海苔という海藻をつなぎに使っていることで、これにより独特のつるつるとした喉越しと強いコシが生まれます。かつて繊維産業が盛んだったこの地域で、織物作りに使われていた布海苔をそばのつなぎに応用したのが始まりとされています。一口サイズに丸められたそばが美しく並ぶ様子は、見た目にも楽しい一品です。
足湯スポットを巡る
温泉街の散策中に気軽に立ち寄れるのが足湯です。越後湯沢駅西口駅前広場には、カラフルなタイルで彩られた写真映えする足湯があります。駅から温泉街やロープウェイステーションに向かう途中で気軽に楽しめる立地も魅力です。
その他にも、歴史民俗資料館雪国館隣にある「足休めかんなっくり」、越後湯澤HATAGO井仙の足湯、唐傘亭の美白の足湯など、温泉街のあちこちに足湯スポットが点在しています。散策で疲れた足を癒しながら、温泉の効能を手軽に体験できるのは嬉しいポイントです。
駅直結の温泉体験

越後湯沢駅の構内には「駅の中の温泉(酒風呂)」があります。ぽんしゅ館という施設内にあるこの温泉は、日本酒の入った珍しいお風呂で、旅の疲れを癒すのに最適です。新幹線の待ち時間や、帰路につく前にサッと入浴できる便利さも魅力となっています。
同じくぽんしゅ館では、新潟全酒蔵の代表銘柄を試飲できるコーナーもあります。500円でお猪口とメダル5枚を受け取り、ずらりと並んだ唎き酒マシーンから好みの地酒を選んで試飲できるシステムは、日本酒好きには堪らない体験です。

四季折々の自然を楽しむ
越後湯沢は温泉だけでなく、四季折々の自然の美しさも大きな魅力です。冬のスキーシーズンはもちろん、春から秋にかけてのグリーンシーズンにも様々な楽しみ方があります。
湯沢高原ロープウェイで絶景体験
越後湯沢駅西口から徒歩約8分の場所にある湯沢高原ロープウェイは、標高約870メートルの山頂駅パノラマステーションまで約7分で到着します。166人が乗れる世界最大級のキャビンからは、越後三山や谷川岳の雄大な山並み、越後湯沢の街並みや新幹線の姿を眺めながら空中散歩を楽しめます。
山頂駅周辺には、雲のようなデザインのオープンデッキに足湯があり、谷川連峰から越後三山へと続く大パノラマを一望しながらのんびりと過ごせます。また、高山植物園アルプの里には、上越新幹線の大清水トンネルを掘った時に出た岩石で造られたロックガーデンがあり、標高2500メートル級の自然を精巧に再現した環境で200種類以上の高山植物を観賞できます。
自然の中でのアクティビティ
グリーンシーズンには、トレッキング、キャンプ、カヤック、渓流釣りなど様々なアウトドアアクティビティを楽しめます。魚野川の東橋上流付近には「鱒どまり」と呼ばれる川遊びスポットがあり、透明度の高い美しい川で子どもから大人まで水遊びを満喫できます。
滝沢公園から山道を15分ほど進むと、不動滝に到着します。高さ約20メートルの断崖から二筋に分かれて流れ落ちる大ゼンの滝は、特に新緑の季節に迫力と清々しい景色が楽しめます。大ゼンは左の男滝と右の女滝が滝壺で結ばれることから、男女がこの滝に祈りを捧げれば愛が芽生えると言い伝えられているパワースポットでもあります。
温泉宿で極上の時間を過ごす
越後湯沢温泉には、昔ながらの風情を残す旅館から近代的なリゾートホテルまで、多様な宿泊施設が揃っています。
源泉かけ流しの温泉を楽しめる宿や、露天風呂付きの客室を持つ宿、地元の食材を使った料理自慢の宿など、それぞれに特色があります。川端康成が執筆に使用した部屋を見学できる雪国の宿高半のように、歴史と文化を感じられる宿もあれば、モダンでスタイリッシュな雰囲気の宿もあり、旅のスタイルや好みに合わせて選ぶことができます。
多くの宿では、魚沼産コシヒカリをはじめとする新潟の食材を使った料理を提供しています。日本海の新鮮な魚介類、山の幸、そして米どころならではの美味しいご飯を堪能できるのも、越後湯沢温泉の魅力のひとつです。
周辺の観光スポットも見逃せない
越後湯沢温泉を拠点に、周辺の魅力的なスポットも訪れてみてはいかがでしょうか。
湯沢町歴史民俗資料館「雪国館」

川端康成の小説「雪国」と湯沢の暮らしや歴史を中心とした展示を行っている施設です。ヒロイン駒子のモデルとされる松栄が住んでいた部屋を移築した展示コーナーもあり、小説の世界をより深く理解することができます。文学ファンはもちろん、湯沢の歴史や文化に興味がある方にもおすすめのスポットです。
清津峡渓谷トンネル
日本三大峡谷のひとつに数えられる清津峡は、雄大な柱状節理の岩壁と清流が織りなす絶景が楽しめます。清津峡渓谷トンネルの最奥部にある見晴所からは、渓谷の景色が水盤に映り込む幻想的な光景を眺めることができ、近年SNSでも話題のフォトスポットとなっています。
大源太キャニオン
大源太湖周辺から大源太山麓一帯は「大源太キャニオン」と呼ばれ、気軽に自然を楽しめるネイチャースポットです。キャンプ場エリア、大源太湖エリア、花の郷エリアの3つのエリアがあり、キャンプやバーベキュー、体験工房などを楽しめます。湖面に映る山々の姿は美しく、写真撮影にも最適なロケーションです。
越後湯沢温泉へのアクセス

越後湯沢温泉へは、東京駅から上越新幹線で最短約66分とアクセス抜群です。新潟駅からも上越新幹線で最短約37分と、県内外からのアクセスが非常に便利な立地にあります。
車でお越しの場合は、関越自動車道の湯沢インターチェンジから約5分です。温泉街には宿泊施設や日帰り温泉施設に駐車場が用意されているところが多く、車での旅行も快適に楽しめます。
越後湯沢温泉旅行をもっと楽しむために
越後湯沢温泉の魅力は、800年以上の歴史を持つ温泉文化、川端康成「雪国」の舞台となった文学的価値、そして四季折々の自然美が見事に調和している点にあります。共同浴場での外湯めぐりを通じて地元の温泉文化に触れ、温泉街の散策でグルメや足湯を楽しみ、周辺の自然や観光スポットを訪れることで、この地域ならではの奥深い魅力を発見できるでしょう。
冬のスキーシーズンだけでなく、春の新緑、夏の避暑、秋の紅葉と、一年を通じて異なる表情を見せる越後湯沢。訪れる時期によって違った楽しみ方ができるのも、この温泉地の大きな魅力です。
都心からわずか1時間ほどで、歴史ある温泉と豊かな自然、そして温かいおもてなしに出会える越後湯沢温泉。日常の喧騒を離れ、心身ともにリフレッシュできる温泉旅行を計画してみてはいかがでしょうか。
新潟県の魅力をもっと知りたい方へ
越後湯沢温泉の魅力を存分にご紹介しましたが、新潟県にはまだまだ見どころ満載の観光スポットがたくさんあります。佐渡島の自然と歴史、日本酒の名産地としての魅力、日本海の新鮮な海の幸など、新潟の奥深い魅力をもっと知りたい方は、ぜひ他の記事もご覧ください。

新潟旅行を計画中の方、温泉好きの方、文学の舞台を訪ねる旅に興味がある方にとって、越後湯沢温泉は心に残る旅の思い出を作れる場所です。ぜひ次の休暇に、雪国の名湯・越後湯沢温泉を訪れてみてください。
