群馬県みなかみ町に位置する照葉峡(てりはきょう)は、俳人・水原秋桜子が「日本一の紅葉」と称賛した関東屈指の紅葉名所です。都心から約3時間というアクセスの良さと、手つかずの自然が織りなす圧倒的な美しさで、毎年多くの観光客を魅了しています。
照葉峡が紅葉名所として人気を集める理由
「関東の奥入瀬」と称される渓流美
照葉峡は利根川の支流、楢俣川沿いに広がる約5kmの渓谷です。青森県の奥入瀬渓流に例えられるほど美しい清流と、両岸を彩る木々の織りなす景観は、訪れる人々を魅了します。10月中旬から下旬にかけて見頃を迎える紅葉は、カエデやモミジが赤く、ブナやミズナラが黄色に染まり、水面に映り込む姿は絵画のような美しさです。
俳人・水原秋桜子が昭和初期にこの地を訪れた際、その美しさに感動し「照葉峡」と命名しました。さらに渓谷に点在する11の滝それぞれに趣ある名前を付け、この地の魅力を世に広めました。
都心からのアクセスが良好
東京都心から関越自動車道を利用して約3時間、水上ICから県道63号線(奥利根ゆけむり街道)を北上すると照葉峡に到着します。日帰りでも充分楽しめる距離にありながら、秘境と呼ぶにふさわしい手つかずの自然が残されています。
早朝に出発すれば、午前中に現地到着が可能です。帰路には水上温泉や猿ヶ京温泉に立ち寄ることもできるため、紅葉狩りと温泉を組み合わせた充実した日帰り旅行を楽しめます。
車窓から楽しむドライブ紅葉
照葉峡の大きな特徴は、県道63号線沿いに渓谷が広がっているため、車を運転しながら、あるいは助手席から紅葉を楽しめることです。駐車場や遊歩道は整備されていないため、基本的には車窓からの観賞となりますが、道路沿いに所々駐車スペースが設けられており、短時間の停車は可能です。
幅の狭い山道を走行するため、運転には注意が必要ですが、その分秘境感が強く、まるで紅葉のトンネルを抜けるような体験ができます。
水原秋桜子が命名した11の滝を巡る
照葉峡には大小11の滝が約5kmにわたって点在しています。それぞれの滝に水原秋桜子が命名した美しい名前が付けられており、各滝の個性を際立たせています。
潜龍の滝(せんりゅうのたき)
下流から最初に現れる潜龍の滝は、照葉峡を代表する滝の一つです。水量が豊富で迫力ある水の流れが特徴で、滝の周辺にはモミジが多く自生しています。紅葉の時期になると真紅に染まった葉と白い水流のコントラストが見事で、多くの写真愛好家が訪れるスポットとなっています。
岩魚の滝(いわなのたき)
潜龍の滝から700mほど上流に位置する岩魚の滝は、名前の通り岩魚が生息する清らかな水が流れ落ちる滝です。比較的小規模ながら、周囲の紅葉との調和が美しい滝です。
白龍の滝(はくりゅうのたき)
岩の間を白い糸のように流れ落ちる様子から名付けられた白龍の滝。滝全体が白く見えることから、秋には周囲の赤や黄色の紅葉とのコントラストが際立ちます。下流から3番目に位置し、県道からも比較的見やすい滝です。
山彦の滝(やまびこのたき)
日によって水量が変化する山彦の滝は、水量が多い日には豪快な水しぶきが上がり、朝日が当たると虹が見えることもあります。周囲には木々が生い茂り、寒暖の差が大きくなる秋には美しい紅葉を楽しめます。
翡翠の滝(ひすいのたき)
エメラルドグリーンの淵が特徴的な翡翠の滝。水の色と紅葉の赤や黄色が織りなす色彩は、まさに自然が作り出す芸術作品です。
木精の滝(こだまのたき)
照葉峡の中でも形が美しく、撮影しやすい滝として人気があります。滝の中央に大きな岩があり、水流が左右に分かれて流れ落ちる様子が特徴的です。
つづみの滝
車道からアクセスが良く、迫力もあることから照葉峡を代表する撮影スポットの一つです。川幅いっぱいに豪快に落ちる水の音が渓谷に響き渡り、見応えがあります。紅葉シーズンには多くの観光客が訪れます。
不断の滝(ふだんのたき)
支流が約5mの滝となって流れ込む様子が見られます。つづみの滝から300mほど上流に位置しています。
時雨の滝(しぐれのたき)
山の上から渓流へと流れ込む滝で、横からの撮影に適した滝です。周辺には苔が生い茂り、紅葉した木々との色合いが趣のある風景を作り出しています。滝の上流には木の実の滝やひぐらしの滝があり、下から見上げると確認できます。
木の実の滝(このみのたき)
時雨の滝の上流に位置する小さな滝。名前の由来通り、周辺には木の実をつける樹木が多く見られます。
ひぐらしの滝
照葉峡の最上流に位置する滝で、ひぐらし蝉の鳴き声が響く静かな環境にあることから名付けられました。11の滝の中で最も奥にあるため、訪れる人は少なく、より静かに自然を満喫できます。
奥利根水源の森で楽しむ紅葉散策
照葉峡の奥に広がる奥利根水源の森は、ブナの原生林が残る貴重なエリアです。照葉峡の滝巡りとは異なる、森林の紅葉を楽しめます。
奥利根水源の森野営場には駐車場とトイレが整備されており、遊歩道も整備されているため、ハイキングを楽しみながら紅葉を観賞できます。ブナやミズナラの黄葉が美しく、新緑と紅葉のグラデーションを楽しめることもあります。
春には水芭蕉も見られるこのエリアは、紅葉の時期だけでなく、6月頃の新緑の季節にもおすすめです。水源かん養保安林として保護されており、洪水を防ぐ重要な役割も果たしています。
照葉峡の紅葉見頃時期と観賞のポイント
例年の紅葉見頃時期
照葉峡の紅葉は例年10月上旬から色づき始め、10月中旬から下旬にかけて見頃を迎えます。標高や場所によって紅葉の進み具合が異なるため、約3週間にわたって紅葉を楽しむことができます。
2025年の見頃予想は10月24日頃から11月6日頃とされていますが、気候条件により前後する可能性があります。訪問前にみなかみ町観光協会の公式サイトやSNSで最新の紅葉状況を確認することをおすすめします。
観賞時の注意点
照葉峡は山間部に位置するため、10月下旬になると気温が大きく下がります。防寒対策をしっかりと行い、上着を持参することが重要です。また、紅葉シーズンは混雑するため、早朝の訪問がおすすめです。
県道63号線は幅が狭く、1.5車線程度の場所もあります。対向車とのすれ違いには十分注意し、安全運転を心がけましょう。駐車場がないため、路上での長時間停車は避け、交通の妨げにならないよう配慮が必要です。
ベストな訪問時間帯
午前中の早い時間帯は光の具合が良く、写真撮影に適しています。特に晴天時には、朝日が渓谷に差し込み、紅葉が一層美しく輝きます。また、早朝は観光客も少なく、静かに自然を楽しめます。
照葉峡へのアクセス方法
自動車でのアクセス
東京方面から
- 関越自動車道を利用し、水上ICで降りる
- 国道291号線を直進し、「大穴」交差点で右折
- 県道63号線(奥利根ゆけむり街道)を北上
- 水上ICから照葉峡まで約1時間
県道63号線は例年11月中旬から5月末まで冬季閉鎖となります。訪問前に道路状況を確認することをおすすめします。
公共交通機関でのアクセス
照葉峡は公共交通機関では直接アクセスできないため、レンタカーの利用が必要です。
レンタカー利用の場合
- 上越新幹線で上毛高原駅まで約70分
- または在来線でJR水上駅まで
- 各駅周辺でレンタカーを借りて、県道63号線を北上
上毛高原駅やJR水上駅周辺にはレンタカー会社がありますので、事前予約をしておくとスムーズです。
照葉峡周辺のおすすめ紅葉スポット
谷川岳(一ノ倉沢)
標高1,977mの谷川岳は日本百名山の一つで、照葉峡と並ぶみなかみ町を代表する紅葉名所です。特に一ノ倉沢は日本三大岩場の一つとされ、標高差1,000mの断崖絶壁と紅葉のコントラストは圧巻です。
谷川岳ロープウェイ山麓駅から一ノ倉沢出合まで約3km、徒歩で約1時間の舗装された道が続いています。登山の知識がなくても気軽に散策できるため、家族連れにも人気があります。紅葉の見頃は10月中旬から下旬です。
谷川岳ロープウェイを利用すれば、天神平から山頂付近の紅葉も楽しめます。ロープウェイとリフトを乗り継いで標高1,500m付近まで上がると、色鮮やかなナナカマドの紅葉と、運が良ければ初冠雪との「三段紅葉」を見ることができます。
奈良俣ダム
「ダムの女王」と呼ばれるロックフィルダムの奈良俣ダムは、照葉峡から車で約30分の場所に位置します。ダム湖周辺の紅葉は壮大で、尾瀬の眺望も素晴らしいスポットです。
無料のトイレや資料館が整備されており、ダムの仕組みを学びながら紅葉を楽しめます。紅葉シーズンには湖を囲む山々が一面赤や黄色に染まり、ダム湖に映り込む景色は絶景です。見頃は照葉峡とほぼ同時期の10月中旬から下旬です。
ただし、現在奈良俣ダムは工事中のため、トイレの利用ができない場合があります。訪問前に最新情報を確認することをおすすめします。
照葉峡観光の基本情報
施設情報
項目 | 内容 |
---|---|
名称 | 照葉峡(てりはきょう) |
所在地 | 群馬県利根郡みなかみ町藤原 |
紅葉見頃 | 10月中旬~10月下旬 |
営業時間 | 24時間(冬季閉鎖期間を除く) |
入場料 | 無料 |
駐車場 | なし(道路沿いに数台分の駐車スペースあり) |
トイレ | 奥利根水源の森野営場を利用 |
問い合わせ先 | みなかみ町観光協会(0278-62-0401) |
注意事項
- 駐車場や歩道が整備されていないため、車窓からの観賞が基本
- 県道63号線は幅が狭く、大型バスは通行不可
- 例年11月中旬~5月末まで冬季閉鎖
- トイレは奥利根水源の森野営場のみ(現在奈良俣ダムのトイレは工事のため利用不可)
- 携帯電話の電波が届きにくい場所があるため注意が必要
照葉峡と合わせて楽しみたいみなかみ町の魅力
水上温泉郷
照葉峡から車で約40分の場所に位置する水上温泉郷は、利根川沿いに広がる温泉地です。紅葉狩りの後に立ち寄れば、疲れた体を癒すことができます。日帰り入浴施設も充実しており、気軽に温泉を楽しめます。
諏訪峡
水上温泉街から利根川に沿って続く諏訪峡も、10月中旬から下旬に紅葉の見頃を迎えます。遊歩道が整備されており、散策しながら紅葉を楽しめます。笹笛橋から眺める谷川岳と利根川の流れ、そして紅葉のコントラストは絶景です。
宝川温泉
照葉峡から車で約30分、日本有数の露天風呂で知られる宝川温泉も紅葉の名所です。広大な露天風呂から紅葉を眺めながら入浴できる贅沢な体験ができます。
照葉峡の新緑シーズンも見逃せない
紅葉で有名な照葉峡ですが、6月頃の新緑の季節も非常に美しいことで知られています。木々が鮮やかな緑に染まり、清流との調和が清々しい景観を作り出します。
新緑の時期は紅葉シーズンほど混雑しないため、ゆっくりと自然を満喫したい方におすすめです。残雪が残る場所もあり、雪解け水で水量が増した滝は迫力があります。
まとめ:照葉峡で極上の紅葉体験を
照葉峡は水原秋桜子が「日本一の紅葉」と称賛しただけあり、関東屈指の紅葉名所として多くの人々を魅了し続けています。約5kmの渓谷に点在する11の滝、清らかな渓流、そして色鮮やかに染まる木々が織りなす景観は、まさに自然が作り出す芸術作品です。
都心から日帰りで訪れることができるアクセスの良さと、秘境と呼ぶにふさわしい手つかずの自然が共存する照葉峡。10月中旬から下旬の見頃時期には、ぜひ足を運んで、この素晴らしい紅葉を体験してください。
周辺の谷川岳や奈良俣ダム、水上温泉郷と組み合わせれば、より充実したみなかみ町の秋の旅を楽しむことができます。事前に天気予報や紅葉の進み具合を確認し、防寒対策を万全にして、照葉峡の極上の紅葉体験をお楽しみください。