富士山頂の火口を巡る「お鉢巡り」〜八つの峰に伝わる信仰と絶景

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富士山頂の火口を巡る「お鉢巡り」〜八つの峰に伝わる信仰と絶景
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添乗員ライターがお届けする旅行情報。今回は静岡県側から富士山に登った際に体験できる「お鉢巡り」をご紹介します。

富士山頂には直径780メートル、深さ200メートルを超える巨大な火口があり、その周囲をぐるりと一周する行程をお鉢巡りと呼びます。かつて富士講の登山者は、山頂の神社に参拝したのち、この火口の縁を時計回りに巡拝しました。日本最高地点の剣ヶ峰をはじめ、火口の縁に連なる八つの峰と、そこに伝わる信仰の歴史を体感できる、山頂ならではの行程です。

項目内容
名称お鉢巡り(おはちめぐり)
一周距離約3km
所要時間約90分(個人差あり)
起点各登山道の山頂(吉田・須走口側は久須志神社付近、富士宮口側は浅間大社奥宮付近)
実施可能時期各登山道の開山期間中のみ(積雪期は不可)

開山期間とルートによる違い

剣ヶ峰の頂上からの眺め
剣ヶ峰の頂上からの眺め

お鉢巡りは、山頂の登山道が開いている期間中でなければ歩くことができません。登山道は例年、吉田口・須走口が7月上旬、富士宮口・御殿場口が7月10日前後に開山し、いずれの登山道も9月上旬には閉山します。どの登山道から登るかによって、お鉢巡りの起点となる場所も変わります。吉田口・須走口側から登った場合は久須志神社付近が起点となり、富士宮口・御殿場口側から登った場合は浅間大社奥宮付近が起点となります。どちらの起点からでも、火口の縁をぐるりと一周すれば、剣ヶ峰をはじめとする八神峰の主要な見どころをひと通り巡ることができます。

お鉢巡りにあたっての注意点

お鉢巡りの道は火口の縁を歩くため、外側は切り立った崖、内側は火口という地形が続きます。区間によっては柵が設置されておらず、強風にあおられたり、雨や霧で足元が滑りやすくなったりすると転落の危険があります。天候が崩れている時や視界不良の時は、無理をせず引き返す判断が必要です。また、道標は必要最低限しか設置されていないため、地図やアプリで現在地を確認しながら歩く必要があります。歩行距離自体は往復で3km程度と長くはありませんが、標高3,700メートルを超える高所を歩くため、平地とは体感的な疲労度が大きく異なる点も踏まえておきたいところです。

「八」から生まれた名前と信仰の歴史

お鉢巡りという呼び名の由来には、大きく二つの説があります。ひとつは、火口を取り囲む八つの峰「八神峰」を巡ることから「お八巡り」と呼ばれ、それが変化して「お鉢巡り」になったという説です。もうひとつは、噴火口の形状がすり鉢に似ていることに由来するという説です。いずれの説を取っても、この行程が古くから山頂の巡拝路として大切にされてきたことに変わりはありません。

八神峰という呼称が使われ始めた時期ははっきりとしませんが、富士講が広まり多くの信者が登拝するようになった頃には、すでに一つの行事として定着していたとされています。当時の富士登山は神仏習合の色合いが強く、八つの峰にはそれぞれ仏教に由来する名前が付けられていました。中央の大きな火口には本尊として大日如来を配し、周囲の峰々に阿弥陀如来や薬師如来などを当てはめる「八葉九尊」という考え方が、江戸時代の登拝図にも記されています。明治時代の神仏分離令により、峰の名前は現在使われている神道系の呼称へと改められましたが、山頂の随所に残る信仰の痕跡は今も訪れる人の目を引きます。

巡拝が時計回りとされてきたのは、明治以前の富士登山が仏教的な色合いを色濃く帯びていたことと関係があります。仏教では聖地を右回りに巡る「右繞(うにょう)」という作法が習わしとされ、この考え方がお鉢巡りの方向にも受け継がれました。もっとも現在では、剣ヶ峰直前の急坂「馬の背」を上りたくないという理由から、あえて反時計回りを選ぶ登山者も見られます。

延宝8年(1680年)に描かれたとされる「八葉九尊図」には、吉田口・下浅間から見た山頂の様子が記されており、中央に胎蔵界と金剛界の両大日如来を配し、駿河口側の頂上から右回りに阿弥陀如来・文殊菩薩・釈迦如来・普賢菩薩・薬師如来・観音菩薩・勢至菩薩・地蔵菩薩を割り当てる構図が確認できます。この八体の菩薩・如来と中央の大日如来を合わせて「八葉九尊」と呼び、山頂だけでなく富士山の各所に神仏をなぞらえる信仰体系が江戸時代を通じて築かれていきました。富士登山で使われる金剛杖の持ち手が八角形をしているのも、この八神峰に由来するとされています。

火口を彩る八つの峰と信仰の跡

遠くから見た剣ヶ峰
遠くから見た剣ヶ峰

八神峰は、火口を囲む峰の中でも特に標高が高い八つの頂に付けられた名前です。剣ヶ峰(3,776m)が日本最高峰として広く知られていますが、そのほかにも二等三角点が置かれた白山岳(釈迦ヶ岳・3,756.2m)、久須志神社近くにある久須志岳(薬師ヶ岳・3,725m)、御来光スポットとして人気の大日岳(朝日岳・3,735m)、関東大震災の直後に噴気が確認されたと伝わる伊豆岳(阿弥陀ヶ岳・3,749m)、成就岳(勢至ヶ岳・3,733m)、富士宮口山頂近くの駒ヶ岳(浅間ヶ岳・3,722m)、三島岳(文殊ヶ岳・3,734m)が名を連ねています。峰ごとの数え方には諸説あり、資料によって含まれる峰が異なる場合もありますが、いずれも大内院と呼ばれる山頂火口を取り囲むようにそびえている点は共通しています。

現在は安全確保のため、峰の頂上そのものを通らず、巻き道を通って火口を一周するのが一般的なお鉢巡りのスタイルです。とはいえ、火口の縁から見下ろす八つの峰の稜線は、火山としての富士山の成り立ちと、古くからの巡礼の歴史を同時に感じさせてくれます。

山頂に残る火口と霊水の見どころ

富士山本宮浅間大社奥宮の銀名水
富士山本宮浅間大社奥宮の銀名水

お鉢巡りの道中には、火口や湧水にまつわる見どころも点在しています。大内院と呼ばれる山頂中心の火口は、標高3,535メートル・8合目相当の深さを持ち、幽宮(かくりのみや)や御内陣とも呼ばれます。浅間大神が鎮座する神聖な場所として浅間大社により禁足地とされ、周囲を巡ることはできても内部に立ち入ることはできません。「内院」という名称は弥勒菩薩が住まうとされる兜率天内院に、「幽宮」は伊弉諾尊の終焉の地に由来するとされ、江戸時代には登拝者が内院に賽銭を投げ入れる「内院散銭」という習わしもあったと伝えられています。

雷岩の下には小内院と呼ばれる小さな火口(標高3,680メートル)があり、阿弥陀如来にちなんで阿弥陀ヶ窪とも呼ばれます。対岸には釈迦の割れ石と呼ばれる岩も見られ、浅間大社では単に「割れ石」と呼ぶのが正式とされています。白山岳の麓には、周辺の峰の雪解け水が地下を通って湧き出る銀明水があり、古くから富士山の神聖な水として祀られ、祠が設けられています。同様に、久須志神社周辺には金明水と呼ばれる湧水も伝わっています。強い雷雲がこの方角から来ることに由来するという雷岩や、うずくまる虎の姿に見立てられた虎岩など、火口の縁には名前の由来を持つ岩も多く、歩きながら少しずつその物語をたどることができます。

360度に広がる大パノラマ

お鉢巡りの最大の魅力は、日本一の高さから見渡す360度のパノラマです。空気が澄んでいる日には、遠く北アルプスの槍ヶ岳まで見えることもあります。火口の縁を一周する間に、雲海の広がりや周辺の山々の稜線、眼下に広がる裾野の景色まで、角度を変えるたびに違う表情の富士山を楽しめます。日本最高地点の剣ヶ峰や、火口そのものが生み出す立体的な地形は、写真では伝わりきらないスケール感を肌で感じられる瞬間でもあります。

日の出前後の時間帯は特に人気が高く、久須志神社付近や大日岳周辺は御来光を待つ登山者で賑わいます。一方、剣ヶ峰へと続く「馬の背」は火山礫に覆われた急斜面で、登り下りともに足を取られやすいため、周囲の混雑状況を見ながら無理のないペースで進むことが大切です。開山期間の中でも週末やお盆前後は登山者が集中しやすく、火口の縁という限られた幅の道を歩く性質上、すれ違いに時間がかかる場面も出てきます。時間に余裕を持ったスケジュールを組んでおくと、焦らずに景色を楽しめます。

目次

周辺スポット

お鉢巡りの道中や起点となる山頂付近には、それぞれ深い歴史を持つスポットが点在しています。火口を一周する行程の中で必ず目にすることになる場所ばかりですので、事前に概要を知っておくと当日の行程がより味わい深いものになります。

剣ヶ峰

剣ヶ峰の頂上の様子
剣ヶ峰の頂上の様子

お鉢巡りの最高地点であり、日本の最高標高点でもある剣ヶ峰は、かつて気象観測所が置かれ、日本の気象観測の一翼を担ってきた場所です。馬の背と呼ばれる急坂を登り切った先に広がる眺望は、お鉢巡りの中でも一番の見どころといえます。

富士山本宮浅間大社奥宮

富士山本宮浅間大社奥宮の建物
富士山本宮浅間大社奥宮の建物

富士宮口山頂に鎮座する浅間大社の奥宮は、8合目以上の境内地を管理する神社です。開山期間中は神職が常駐し、山頂ならではの御朱印や祈祷を受けられる、標高3,700メートルを超える場所とは思えないほど厳かな空間が広がっています。

久須志神社

久須志神社と石碑
久須志神社と石碑

吉田口・須走口山頂に鎮座する久須志神社は、御来光を待つ登山者で賑わう人気のスポットです。周囲には売店が立ち並び、山頂ならではの活気を感じられる一角となっています。

周辺のオススメ宿泊施設

お鉢巡りを含む富士登山の前後には、富士宮エリアでの前泊・後泊が便利です。

富士宮富士急ホテル

富士宮駅から徒歩約2分という好立地にあるのが「富士宮富士急ホテル」です。登山シーズンには、ホテル正面のバスターミナルから新五合目行きのバスが発着しており、富士登山の拠点として利用しやすい立地です。無料の朝食バイキングでは、富士宮やきそばや朝霧牛乳など地元の食材を味わうことができます。

富士宮富士急ホテル

富士宮富士急ホテル

料金・空室状況を確認:

天然温泉(さくやの湯)スーパーホテル富士宮

登山後にじっくりと疲れを癒したい場合は、天然温泉を備えた「天然温泉(さくやの湯)スーパーホテル富士宮」が候補になります。ナトリウムやカルシウムを含む泉質で、筋肉痛や神経痛への効能が期待できるほか、無料の朝食バイキングも用意されています。

天然温泉(さくやの湯)スーパーホテル富士宮

天然温泉(さくやの湯)スーパーホテル富士宮

料金・空室状況を確認:

休暇村富士

田貫湖のほとりで富士山を一望しながら過ごしたい方には「休暇村富士」が向いています。全客室から富士山を望むことができ、弱アルカリ性の天然温泉に浸かりながら登山の疲れをゆっくりと癒すことができます。

休暇村富士

休暇村富士

料金・空室状況を確認:

まとめ

剣ヶ峰の頂上の石碑がある記念撮影スポット
剣ヶ峰の頂上の石碑がある記念撮影スポット

お鉢巡りは、日本最高地点の剣ヶ峰を含む八つの峰を巡りながら、富士山の火山としての姿と、古くから受け継がれてきた信仰の歴史を同時に体感できる山頂ならではの行程です。天候の急変には十分な注意が必要ですが、条件が整えば360度に広がるパノラマと、火口の縁に刻まれた物語の両方を味わうことができます。登山の前後には、富士宮富士急ホテルや休暇村富士など、富士山を望める宿での滞在も選択肢のひとつになります。

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